ウレタンからライフスタイルのイノベーションを起こしたい。イノアック・煙山貴紀
煙山さんは白馬村のイノアック コーポレーションのショールームにお勤めだそうですね。イノアックとはどのような企業なのでしょうか。
煙山:イノアック コーポレーションは、あと3年で100周年を迎える会社でして、どんなことをしている企業なのかというと、かなり多部門にわたるものづくりをしているので、なかなかわかりづらいところがあると思います。ざっくり言いますと、ウレタンとゴム、樹脂の素材を製造していまして、それらを加工した製品を販売しています。自動車産業、住宅・建設関連、IT機器などですね。もっとわかりやすく言いますと、バイクや自転車のタイヤメーカーのIRC・井上ゴム工業がグループ会社となります。イノアックスの関連業務としては断熱材やソファや寝具、介護用品も扱っています。とにかくいろんなモノを作っているのですが、常に新しいモノを探して、皆様の豊かな暮らしをサポートすることを目指している会社です。
つまりウレタンに関するものならなんでも扱う会社がイノアックということなんですね。
煙山:弊社はメーカーと直接お取引している商品が多く、一般ユーザーの方々との接点は少ないので、ご存知ない方も多いかもしれません。そうしたこともあり、『気候非常事態宣言』を全国に先駆けて発令した白馬村から、弊社にお声がけいただいたのです。まずは白馬村インターナショナルスクールへマットレスを寄付したのですが、その開校式の際に白馬村の村長と弊社代表が意気投合しまして、今後もぜひご協力していきたいという思いもあり、白馬村にショールームと事務所を作ったのです。
未来SUMIKA実験箱に携わるようになったのは、どんなきっかけだったのですか。
煙山:白馬に住んでる方にご紹介いただいて、三橋さんといっしょに食事したことがきっかけです。そこで接点ができまして、何度かお会いするうちに未来SUMIKA実験箱の話を伺い、製作している現場(米澤製材所)を見せていただきました。そのときにトレーラーの断熱をどうしているのかが気になったのです。
クルマなどの断熱材も手がけていらしたのですか?
煙山:以前、沖縄の事務所に勤めていたときにキャンピングカーの断熱に携わったことがあるのですが、けっこうむずかしいことを知っていたからです。断熱だけではなく、シートのカバーや寝具にも携わってました。そうした経験があったので、未来SUMIKA実験箱の断熱に興味がわいたのです。話を聞いてみたら、ごく一般的な断熱材を使うというので、弊社のハイスペックな断熱材がお役に立てるのではないかと考えました。そこで会社と交渉したところゴーサインが出たので、今回ご提供させていただいたというのが経緯ですね。
会社の意思決定がとても早いんですね。
煙山:イノアックという社名は、イノベーション&アクションという言葉から作った造語です。そうしたこともあり、新しい事業に挑戦することに関しては、現場の熱意があればやらせてもらえる社風があります。
白馬のショールームと事務所もたしかにそうですね。
煙山:弊『行動と革新』を企業理念にしていることが大きいですね。もうひとつ、未来SUMIKA実験箱は自給自足型で、滞在している周囲に負担や迷惑をかけずに自己解決できる移動居住空間だ、という話を聞いたとき、そんなことはほかで聞いたことがないと驚かされたのです。誰もやったことがない、新しいことへのチャレンジなら、ぜひ弊社の各部門で協力しながらご提案したいと思ったのです。
イノアックと煙山さんのご意向、そして未来SUMIKA実験箱のコンセプトが同じだったのですね。ところで、イノアック製の断熱材はハイスペックとのことですが、一般的な断熱材とはどの点が違うのでしょうか。
煙山:一般的な断熱にはグラスウールが使われています。断熱材には1900年代に開発された第1世代から第4世代まであるのですが、グラスウールは第1世代です。当時は画期的な材料でしたが、弊社のウレタンフォームの断熱材ですと、だいたい半分の薄さで同等の断熱性能を出せます。たとえばグラスウールだと60mmにしなければならないところを30mmで済みますから、キャンピングカーのような狭小空間には最適なのです。
たとえば床、壁、天井でそれぞれ30mm広くできるとなると、たしかにかなり有効ですね。
煙山:キャンピングトレーラーが断熱材の厚みで壁の厚さを変えることはないと思うんですね。基本壁の厚さは決まっているので、その厚さのものを埋め込みます。ですから、サーマックスなら他の素材よりもより高い断熱効果が得られる、と考えて頂いた方がいいと思います。また、グラスウールは使用過程でだんだん下へ沈んでいきます。とくにキャンピングカーですと、エンジンや走行の振動でグラスウールが落ちやすいのです。すると断熱材が下に集まってしまうので、上のほうは断熱性能がなくなり、暖気のムラができますし、全体として断熱性能が低下しまいます。また、スプレー式のウレタン断熱材もありますが、大量の空き缶がゴミになるところがデメリットといえます。
断熱といっても熱気にも冷気にも効果があるんですよね。
煙山:そうです。未来SUMIKA実験箱に使う断熱材とは異なる素材ですが、最近ですとワクチンの保冷ボックスにも弊社の断熱材が使われています。未来SUMIKA実験箱では、サーマックスという製品の30mmのものを使います。これは弊社の断熱材でもっともハイスペックなものです。
暖房よりも冷房を使うときに電力を消費するので、高性能な断熱材は夏こそ大活躍するでしょうね。
煙山:そうなんです。未来SUMIKA実験箱はトレーラーですが、キャンピングカーの場合はエンジンの放熱を遮熱するために床の断熱にこだわる施工例が多かったですね。
そのほかにも御社の断熱材のメリットはあるのでしょうか。
煙山:火や水への耐性が強いことがあります。湿気を吸わないので、経年変化で重くなることがありません。
キャンピングトレーラーにとってそこは重要ですね。
煙山:今回ご提供したサーマックスは、建築現場ではたくさんの施工実績がありますが、キャンピングトレーラーへの施工は初めてです。
イノアックにとってもチャレンジなのですね。御社は断熱材以外の製品も手がけていますが、ほかにも未来SUMIKA実験箱に使えるものはありますか。
煙山:ベッドのマットレスですね。弊社のマットレスは加工を部分的に変えることで硬さを変化させられますので、三橋さんの身長、体重、体格に合わせて体圧分散するための検証をやりたいと思っています。まだベッドサイズが決まってないそうなので設計はこれからですが、狭い空間への設置になるのでなるべく通気性をよくして、熱ごもりしないようにしたいと考えています。
住宅のベッド用と未来SUMIKA実験箱のようなトレーラーハウスでは、マットレスの加工方法は異なるのですか。
煙山:いえ、同じですね。寝床内温度を33度プラスマイナス1度が理想といわれていますが、布団にくるまれた状態のことですので、住宅でもトレーラーハウスでも変わりません。体圧分散については弊社にノウハウがありまして、睡眠中の寝返りすることで関節の可動域が広がって、気持ちよく目覚められる設計のマットレスを作れます。眠っている間に身体をメンテナンスするイメージですね。弊社はそれを追求しています。
未来SUMIKA実験箱は、トレーラーハウスといっても週末の数日だけという使い方ではなく、数カ月もの長い期間寝起きするわけですから、日々の快適な眠りは大切ですね。
煙山:そのとおりです。三橋さんが全国を回って旅をしていくうちに、マットレスの好みも変わってくるでしょう。それは貴重なデータですから、我々としてもぜひ伺いたいポイントです。また、弊社のマットレスは虫の食料になる成分を使ってないので、虫がつきません。こうした利点も未来SUMIKA実験箱で使うメリットですね。
なるほど、たしかに最適なマットレスですね。ほかにも何か御社製品の可能性はありますか。
煙山:三橋さんと話しているのは、シャワーなどの排水の浄化装置に、弊社のろ過フィルターを使えないかと模索しています。もうひとつは、エンジンの排熱を利用できないかという点です。弊社では蓄熱材も扱っていまして、お弁当の保温ボックスなどで活用しています。三橋さんからはこれを床暖房に使えたら最高というお話が出ていますし、それも含めてエンジンの熱をうまく利用する方法を考えていきたいですね。
煙山さんにとってもチャレンジですね。
煙山:はい。先にもお話したとおり、弊社はメーカー向けのものが多いので、皆様のもっと身近なところ、見える場所で、うちの材料やシステムを使えることに興味津々です。弊社は空間の温度管理設計のノウハウをたくさん持っているので、ベッドの下に風を送るシステムなども視野に入れて、未来SUMIKA実験箱をより快適な空間にしていきたいと思っています。