どこからでも遠隔操作が可能な「スマート・モバイルハウス」を考えるのが私の仕事。システム設計・川本 武

2023.02.13
どこからでも遠隔操作が可能な「スマート・モバイルハウス」を考えるのが私の仕事。システム設計・川本 武

川本さんは普段どんなお仕事をしているのですか。

川本:私は旭興産グループの中の旭国際テクネイオンという会社に所属してまして、工場やプラントにおける監視制御システムの構築を担当しています。弊社の主な事業としては、工場やプラントにおける計装という分野のメンテナンス/工事です。

計装とは耳慣れない言葉ですが、どのような仕事なのでしょう。

川本:大きな工場やプラントにかかわる業務なので、一般にはあまり知られてないですね。説明するのがなかなかむずかしいのですが、たとえば工場やプラントでは材料や燃料などさまざまな液体、あるいは電気などのエネルギーを使っていますよね。そうしたものの温度、流用、圧力などはセンサーで常に計測して監視しているんです。そしてそれらのデータを基に、コントロールセンターから遠隔操作して適正になるよう加熱したり減圧したり、というようなシステム全体、といったらいいでしょうか。ひとことでいうと、工場内の監視制御ですね。そのような分野の中で使用する機器の選定や調達、設置工事、点検や保守といった業務に加えてシステム構築をしています。

わかったようなわからないような……(笑)。プラントというと、ガスや石油精製、化学薬品だったり医薬品など原料や材料を作り出す大規模な施設ですよね。川本さんが普段携わっている業務からすると、SUMIKA LABOはかなり規模が小さくなりますが、そのぶんシンプルで簡単になったりするんですか。

川本:いいえ。たしかに規模は小さくなりますしシンプルにもなりますが、簡単というわけではないんです。たとえば、工場やプラントでは事故防止のため設計と保守はなによりも安全第一なんですが、それをそのままSUMIKA LABOにフィードバックすると、どうしてもコストがかかりすぎてしまいます。もちろんSUMIKA LABOでも安全性は重要ですが、工場やプラントに比べれば危険度は低いですから、規模をそのまま小さくすればいいというわけではなくて、SUMIKA LABOに合わせた設計が必要ですね。

本来は大型工場などで稼働する監視システムを、モバイルハウスのSUMIKA LABOに搭載しようというもの。普通のキャンピングカーでは不要な装備だが、普通の家と同じように電気のことを気兼ねなく使えるようにし、またスマート家電などの21世紀のアイテムを使用できるようにするため。まさに技術がぎゅっと詰まったモバイルハウスとなる予定。
本来は大型工場などで稼働する監視システムを、モバイルハウスのSUMIKA LABOに搭載しようというもの。普通のキャンピングカーでは不要な装備だが、普通の家と同じように電気のことを気兼ねなく使えるようにし、またスマート家電などの21世紀のアイテムを使用できるようにするため。まさに技術がぎゅっと詰まったモバイルハウスとなる予定。

川本さんにはこうしたトレーラー、あるいは個人住宅のような小さな規模の計装システム設計経験はあるのですか。それとも三橋さんのようにトレーラーでキャンプをする趣味があるとか。

川本:いや、ないです。ふつうのクルマにテントやコンロとかを積んでファミリーキャンプしたことがあるくらいです。近所の公園でバーベキューをしたことがきっかけで、10年くらい前ですかね、家族でよくキャンプに出かけていました。子供たちとの思い出づくりにもなるので、毎年夏になると子供と妻といっしょに本栖湖あたりに行って、湖で泳いだりみんなでごはんを作って食べたり。

いいですねえ。

川本:だからキャンピングカーへの憧れはあったんです。実家が熊本なので、家族で帰省するときにキャンピングカーで行けたら楽しいだろうなとか、いつかは欲しいな、なんて思ったりしてましたけど、持っている知人もいなかったので、実際にはよくわからない世界でした。

実際にSUMIKA LABOで川本さんが設計するのはどんなシステムなのでしょう。

川本:SUMIKA LABOでは、ソーラーパネルで発電した電気でエアコンや冷蔵庫、調理器具などを稼働させます。また、発電した電気は中古EVから取り外したリチウムイオンバッテリーに蓄電しますし、風力発電を導入するアイディアもあります。まずはいくつかある電源をどのように配分していくか、というところからです。今のところ発電量は2000Whで見積もっていますが、それに対する蓄電池がどのくらい必要なのか。あるいは搭載する電気機器が増えたらそこをまた見直さなければなりません。これは私の思いつきですけど、SUMIKA LABO内で野菜を作れたらおもしろいですね。そのためには電気がさらに必要になりますし、専用スペースも設けなければならないからむずかしいですけどね。

ソーラーパネルは住宅用に使うパネル式と、キャンピングカーでポピュラーな薄型のフレキシブルタイプがある。住宅用のパネルの方が発電効率は高いが、その分重量がかさむ。そこで両者の利点のバランスをとりながら配置していく予定。他に風力発電も搭載予定。
ソーラーパネルは住宅用に使うパネル式と、キャンピングカーでポピュラーな薄型のフレキシブルタイプがある。住宅用のパネルの方が発電効率は高いが、その分重量がかさむ。そこで両者の利点のバランスをとりながら配置していく予定。他に風力発電も搭載予定。

エネルギーだけでなく食料まで作れたら、オフグリッドがさらに進化しますね。ところで、バイオトイレもかなりの電気を消費するそうですね。

川本:機械の温度を一定にする必要があるためとくに冬場の消費電力が高くなるんです。季節だけではなく天候によっても一日の消費電力は変わりますから、それを踏まえた発電量と蓄電量、機器類の選定と検証が大切です。

どんなシステムを目指しているのでしょうか。

川本:できるだけシンプルにして、壊れにくく、メンテナンスが容易なものです。たとえば人里離れた真冬の野原で電気系統にトラブルが起きて暖房器具を使えない、といった事態にならないためには、シンプルなシステムがいちばんです。それに加えて、電力の有効活用、コストと使い勝手ですね。このバランスをいかにうまく取るか、そこが重要だと考えています。

SUMIKA LABOの電気系統はスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスで一括管理できるようにする、とも伺いました。すると、たとえばSUMIKA LABOを撮影場所の野原などに停めていて、そこから遠く離れた町で買い物をしているときでも、SUMIKA LABOのエアコンの電源を入れたり、防犯カメラの映像を見たり、ドアロックしたりということがスマートフォンでできてしまうわけですね。

川本:そうですね。それが使い勝手の部分で、今回のミソともいえるテーマです。これにはOPTO22社の『groovEPIC(グルーブエピック)』というシステムを使います。産業分野ではIIoTというのですが、簡単にいうと「モノのインターネット」です。SUMIKA LABOに積む電気製品やセンサーなどをネットワークでつなぎ、系統ごとの消費電力や機器の状態を一括で監視します。この情報や制御はスマートデバイスのアプリひとつでできるようにします。ネットワークには監視カメラや人感センサーなどもつける予定で、たとえばエアコンの設定温度や消費電力の情報と、監視カメラの映像をひとつのアプリで見られるようになります。SUMIKA LABOには浄水システムも積みますが、給水ポンプの電源制御やタンク内の残量などもモニターします。

遠隔操作の重要パーツ「groove EPIC」
遠隔操作の重要パーツ「groove EPIC」
SUMIKA LABO のもっともエポックメイキングな部分となるのが、このgroov EPIC。インターネットを介して電気器具や電力を監視するだけでなく、遠隔操作でコントロールも可能。Iotとしての機能も果たすことで、SUMIKA LABOをスマート・モバイルハウス化する。
SUMIKA LABO のもっともエポックメイキングな部分となるのが、このgroov EPIC。インターネットを介して電気器具や電力を監視するだけでなく、遠隔操作でコントロールも可能。Iotとしての機能も果たすことで、SUMIKA LABOをスマート・モバイルハウス化する。

いくつもある電気製品をそれぞれのアプリで監視するのではなく、ひとつのアプリでぜんぶモニタリングできるわけですね。いちいちアプリを切り替えなくていいのは使い勝手がよさそうです。そのアプリでは、それぞれの機器を操作することもできるのですか。

川本:すべての機器を細かくコントロールすることは複雑になりますから、重要な一部だけにする予定で、詳細はこれから検討を重ねる中で決めていきます。groovEPICを使えば、SUMIKA LABOのどこでどのくらい電気が使われているかを一括で監視できますから、たとえば夜寝るときは『スリープモード』とか、SUMIKA LABOを切り離したときは『外出モード』といったように作動モードをいくつか用意しておいて、設定ひとつで簡単に節電できるシステムを目指しています。

これがSUMIKA LABOに搭載される電力の設計図。ソーラーパネル、風力発電、またエマージェンシー用に小型エンジン式発電機を搭載。3系統の電力を効率よく配分してコントロールする。24時間フルタイムの稼働を目指した内容となっている。
これがSUMIKA LABOに搭載される電力の設計図。ソーラーパネル、風力発電、またエマージェンシー用に小型エンジン式発電機を搭載。3系統の電力を効率よく配分してコントロールする。24時間フルタイムの稼働を目指した内容となっている。

インターネットにさえつながっていれば、どこからでもSUMIKA LABOを監視できるとなると、かなり利便性が上がりますね。そうしたシステムの全体像ははじめから見えていたのですか。

川本:いえいえ。社長から言われたときはどんなものかまったくわからなくて、三橋さんの企画書を見て、ようやくイメージがわいたくらいです。tboxもかなりすばらしいキャンピングトレーラーだと思うのですが、そこから時代に合わせた進化をさせることはすごいと思いますし、三橋さんの発想は私たちでは思いつかないものばかりなので驚かされることばかりですね。

普段の仕事ではなかなか会わないタイプの人でしょうしね。

川本:そうですね(笑)。私は学生時代に野球や水泳をしてきて、クルマやバイクっていう趣味とは無縁でしたから、三橋さんがダカールラリーで活躍した人ということも知らなかったくらいです。とても自由な人という印象ですが、だからといって身勝手ではなく、私たちのことをちゃんと気づかってくれます。けっして気楽な仕事ではありませんが、楽しみながらやってます。蓄電池を中古EVから取り外したリチウムイオンバッテリーを使うのもおもしろいですし、エコという観点からも興味がある分野です。パッと簡単にできることではないからやり甲斐もありますし、SDGsという世界中でやっていかなければならないこと、未来の地球に必要なことに携われることはうれしいですね。

SUMIKA LABOが完成した暁には、川本さんも家族を乗せて旅できたらいいですね。

川本:そうですね(笑)。そんなこともやってみたいです。現段階ではシステム作りに大きな課題や不安はありませんが、まだ何が出てくるかわかりません。製作途中での設計変更もありえることです。まずは完成、試運転に向けて、三橋さん、米澤さん、Kitagawaさんと楽しみながらやっていこうと思っています。