実験だから面白い。物作りとしてこんなにワクワクする現場はない。制作担当・米澤政幸
米澤製材所は木材を加工することが主な事業で、それを活かした一枚板のテーブルや家具製作、そして一般住宅や店舗の建築も手がけていますね。さらにキッチンカーやキャンピングカーの製作もするようになったのはどうしてなんでしょう。
米澤:オレが好きだから、最初は冗談半分ではじめたんです。クルマもオートバイも好きだし、キャンピングカーとかにも興味があったんですね。仕事だけじゃなく、自分用にエアストリームっていうアルミボディのキャンピングトレーラーをベースにして、好きなように改造したりもしてます。
キャンピングカー製作の経験も豊富で、バイクやクルマも好きな米澤さんから見て、三橋さんがSUMIKA LABOでやりたいことをどう感じていますか。
米澤:うん、そうだね。オレもやっぱりキャンピングカー……そういうと彼は「キャンピングカーじゃない!」って言うんだけど(笑)、オフグリッドを意識したものはオレも作りたかったし、そのノウハウを勉強したいというのもあったんです。だから仕事というよりも、どっちかというとオレも一緒にやりたいって感じですね。淳くんとは趣味や感性が似てるところがあるから、彼が作りたいものや方向性はある程度わかるし、ツーカーとまでは言わないけど、7割くらいは雰囲気でわかってくれてる感じはあります。SUMIKA LABOみたいなものは、オレはオレなりに、自分用に1台作りたいくらいです。もっともオレの場合はトレーラーじゃなくてバスタイプがいいかな。
SUMIKA LABOの設計図を引いたのは米澤製作所ですが、エアストリームの改造で培ったノウハウが活かされてるんですか?
米澤:そうですね。もちろんそれはエアストリームでのことだけじゃなく、これまで米澤製材所で作ってきたキャンピングカーやキッチンカーのノウハウも含めてね。エアストリームはいちおう完成してますけど、まだ検証中でもあるんですよ。2022年の夏に作り上げて、白馬や立山に何度か出かけてますけど、まだ公に完成したとは言ってないんです。なぜかというと、どこかへ行くたびに、ここをこうすればよかったとか不満が出てくるんです。たとえば音がうるさいとかエアコンを一日使ってると蓄電池が持たないとか、暖房機はひとつじゃ足りないとか。
トライアンドエラーの最中ということですね。
米澤:そうそう。その中で僕が失敗したと思うところはぜんぶ教えるし、同じ失敗をしないよう活かしていきます。たとえば、エアコンやベッドをどこに置くとベストだとか、車内の風の抜け方とか回し方とか、換気扇をここにつければうまく流れるとか。だけど淳くんには淳くんの使い方があるから、エアストリームの手法をそのまま使うわけにもいかないんです。それでも、SUMIKA LABOが完成しました、見てください、とお披露目したとき誰かに「ここがダメだ」とか言われるようなものにはならない自信はあります。そこまでやっても、最終的には淳くんがSUMIKA LABOを走らせてひと夏、ひと冬越えてみないとわからないことも出てくるものなんです。
SUMIKA LABOはアメリカから輸入した新品のキャンピングトレーラーの中身、エアコンやシャワーなどをぜんぶ撤去しましたけど、あれはどうしてですか。
米澤:ひとことでいうと、SUMIKA LABOで淳くんが求めるものにするためです。たとえば、アメリカと日本では気候がちがうから、エアコンにしても日本で使うと、まあ冷えないっていうか……国内で使うならやはり日本のエアコンがいちばん効率がいいんです。でも日本製のキャンピングカー用エアコンはないので、一般家庭用を積むことになるんです。そうすれば外部から遠隔操作で電源のオンオフもできます。でもクルマに積むことを想定してないから振動対策なんてしていないし、室外機の置き場所にも工夫しなくちゃなりません。ソーラーパネルもいろいろなメーカーから出てますけど、どれもがちゃんとしたものではないから、そこはやっぱり勉強が必要になってきますね。
先に公開されたSUMIKA LABOの動画を見ると、内壁まで撤去して骨組みだけにするなら、素人目にはトレーラーそのものを作ったほうが安上がりに思えるのですが……。
米澤:もしもシャシーから作る場合、陸運局の型式認定を取らなければなりません。シャシーの強度やブレーキの試験などの審査をパスするにはものすごい手間と時間がかかりますし、個人でできるものではないのです。だから既成品を使うしかないのですが、日本製のトレーラーはほとんどないですし、SUMIKA LABOに搭載する装置を積むには小さすぎるんです。だからアメリカ製のキャンピングトレーラーの中身をぜんぶ取っ払うしかなくて、結局はそのほうが手っ取り早いんです。SUMIKA LABOのベースとして使うトレーラーは、日本の規格だとギリギリの横幅2.5mですけど、アメリカだとこれは小さいほうですね。
なるほど。そうして中身をぜんぶ撤去してようやく電力システムや浄水装置などを積めるわけですね。
米澤:いいや、それだけではダメなんですね。屋根の上にソーラーパネルを置くにしても、今のままではフレームが木材だから強度が足りなくて屋根がつぶれちゃうので補強が必要なんです。だから鉄の角パイプを溶接してフレームを製作して取り付けました。これから電気の配線や上下水の配管をしていくところです。
住宅でいうと棟上げが済んで、ひと区切りといったところですね。配線や配管にあたって課題はあるのでしょうか。
米澤:そういうことはないんだけど、載せるモノが多いからむずかしさに直結しますし、きれいに収めるには時間もかかります。なにしろ通常ではないことをやってるから(笑)、通常のやり方が通用しない部分も出てくる。水のオフグリッド化のために空気中から飲料水を作る装置を積むのだけど、普通のキャンピングカーには積まないですからね。そのほかの機器の設置場所もほぼ決まりましたが、作業を進めていくと、機械の排熱の問題などが出てくるかもしれません。試験運転してみてそうした問題が出てきたら、またそのときに少しずつ設置場所を変更していくことになると思います。
そうなると電気配線やバッテリーにも影響してきますね。
米澤:そうですね。そこはみんな同じことを感じていて、機器類の設置を進めるうえで想定外のことが起きることも織り込んでます。そこがむずかしいところでもありますが、淳くんがやりたいこと、SUMIKA LABOが目指すところを優先していくので、配線や配管がむずかしいからといって妥協することはないですね。作りたいものを作る。やりたいことを実現するために作っていく。目指すゴールは変わりません。そのための未来SUMIKA“実験箱”ですから。
実験的な部分があるからこそ、おもしろいし、やりがいもあるわけですね。
米澤:SUMIKA LABOでやろうとしていることは、環境負荷の少ないエネルギーの作り方と使い方を考えて実践していこうということだから、世の中の流れと合ってるし、むしろ最先端を行ってると思うんですよ。こういうことをやりたいと考えていても、予算のことも含めてなかなか実行には移れないですから、このプロジェクトに関われてるのは楽しいし、ぜひとも成功させたい。みんなその道のプロで、最高のモノを作りたいと思ってるから知恵をフルに出しあってる。だから実験でもあるし、仕事でもあるし、アソビでもあります。やりたいからやってるし、楽しみながら真剣にやってます。