EVの使用済みバッテリーを"生活電源"へ再利用するのは理にかなってます。蓄電池部門・Kitagawa
SUMIKA LABOでは、太陽光や風力で発電した電力をバッテリーに蓄えるシステムを採用していますが、そのバッテリーとはどんなものなのでしょうか。
Kitagawa:電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)から取り出したバッテリーです。従来のハイブリッド車ではニッケル水素バッテリーも使っていましたが、今はリチウムイオンバッテリーになってきています。中古の電気自動車やハイブリッド車から取り出したバッテリーをリビルドしたものを搭載します。
リチウムイオンバッテリーのリビルドとはどんなものなのでしょうか。
Kitagawa:クルマを走らせるのに必要なバッテリーというのは、すごくもったいない使い方なんです。たとえば日産のリーフを十分な動力性能で、なおかつ満足できる巡航距離を保とうとすると、バッテリーが新品に近い状態でないとむずかしいんです。するとオーナーさんはバッテリー交換をしたり、あるいはクルマを乗り替えてしまいます。でも、一充電あたりの巡航距離が半分、または三分の一以下になったバッテリーが、はたして容量も半分以下なのかと気になって調べてみたら、実はまだ8割近く残っていたんです。
8割残っていても、クルマでは使い物にならないのですか?
Kitagawa:そういうわけではないですが、蓄電能力は落ちてますから巡航距離は短くなります。それがどこまで減ったら使い物にならないかは、ユーザーの使い方や考え方で変わってくると思います。
スマートフォンのバッテリーと同じですね。
Kitagawa:そうですね。あとは寒冷地ですとバッテリーの放電が早くなりますし、使用条件次第だと思います。
ではリチウムイオンバッテリーのリビルドとは、具体的にはどういう作業なんでしょうか。
Kitagawa:BEVやHEVはたくさんのバッテリーを積んでいるのですが、どれもが均一に劣化するのではなく、そのうちの何個かがダメになるんです。なので、どれがダメなのかをひとつずつチェックしていきます。といっても、ダメになったものを交換するだけでは不十分で、全体のバランスを取る必要があるんです。でもそのためのデータとなると電圧以外は非公開ですし、配線図などもないので、手探りで見つけるしかありません。とにかくたくさんのバッテリーを分解して組み立てることを繰り返しかないのですが、そうしてノウハウを蓄積してきました。その作業はレゴブロックを組み立てることと似ていて、それはそれで楽しいんですけど(笑)。リーフに搭載されるバッテリー。セル状の小型バッテリーがいくつも連結されている。その個数によって容量が調整できる。2個1組を1スタックとして8スタックをSUMIKA LABOに搭載する予定。
そうしてリビルドしたバッテリーをSUMIKA LABOに搭載して、どのくらいの電気を使えるのでしょうか。
Kitagawa:SUMIKA LABOには8スタックのバッテリーを搭載しますが、2スタックに蓄えられる電力がだいたい5kWh前後です。これは一般家庭の一軒家で使う電気量のおよそ半分ですから、ワンルームマンションならおそらく2日分になると思います。
SUMIKA LABOにその4倍のバッテリーを積むのなら、およそ1週間分になりますね。
Kitagawa:最初は6スタックという話だったんですが、淳さんの夢はとにかく大きいですし、淳さんがやりたいと思うことをぜんぶ実現できたほうがおもしろいと思い、8スタックにしました。これは僕の考え方でもあるのですが、エコとか省エネのために制限をかかるのがイヤなんです。環境のためにはやりたいことを我慢しなくちゃいけない、という風潮に疑問があるんですね。それよりも、どうすれば環境に負荷をかけずにやりたいことを実現できるかを考えたほうが楽しいじゃないですか。
だからといって昔の生活スタイルに戻るわけにもいかない。
Kitagawa:そうです。今の社会はサステナブルとかSDGsと言っていますが、無駄を省きながらも存続可能な経済システムを作ることがゴールだと思うんです。経済システムを現状よりも縮小せずに維持するためには、我慢をしちゃいけないんです。だから今までとはちがう切り口でやっていかなければならないと思います。リチウムイオンバッテリーは専門業者がリサイクルもしているのですが、それよりも少ないコストでリビルドできて、必要なところで活用できるならそのほうが断然いいじゃないですか。
リチウムイオンバッテリーのリサイクルの現状はどんなものなのでしょう。
Kitagawa:まだ確立されていないのが大問題なんです。廃棄物としてバッテリー会社が回収して粉砕処理した後、炉で燃やしてリチウムなどの資源を取り出してリサイクルすることは可能です。しかしバッテリーの回収費用はユーザー負担なので、リサイクルはなかなか進みません。それに、まだ8割近くも容量が残っているバッテリーを廃棄物として処理場へ回すことにも僕は疑問がありますね。
なるほど。それならリビルドして、EVやHEV以外で活用したほうがコストも安いし、無駄な手間もかからないですね。
Kitagawa:ソーラーパネルで発電した電気をバッテリーに蓄えて、それを一般家庭の100Vで使った場合、バッテリーに最大出力で負荷をかけても、リーフを全速力で走らせるときの1200分の1くらいしかないんです。だから住宅やSUMIKA LABOのような使い方にはまったく問題ありません。実際、僕も自宅でリビルドしたバッテリーを使っていまして、台風で停電したときにあたり一帯が真っ暗だったのですが、うちだけは電気が点いてました。こういうこともあったから、今回の話を淳さんからいただいたとき、これはすごくいいタイミングだと思って、すぐに「やります」と返事したんです。
Kitagawaさんがやろうとしていたことと、三橋さんがやろうとしたことのタイミングがばっちり合ったわけですね。
Kitagawa:そうなんです。僕はそもそもこうしたリチウムイオンバッテリーの再利用は、トレーラーでやるべきだと考えていたんです。災害時の非常用電源として、被災地まで持っていてそこへ置いておけばいいんですから、クルマよりもトレーラーのほうが向いてるんです。
SUMIKA LABOのコンセプトとまったく同じですね。ということは、リチウムイオンバッテリーを搭載するにあたってとくに大きな課題はないのでしょうか。
Kitagawa:課題はひとつしかなくて、淳さんがどのくらい電気を使うかです(笑)。あえて挙げるなら、まず電圧ですね。今回搭載するバッテリーは48Vなのですが、クルマの電装品は12Vや24Vが主流で、そうしたものも多少使う予定があるそうなので、うまくそこをサポートしたいということです。この先、設計や仕様の変更もあるとは思いますが、僕のところでもロケバスのエンジンを止めたままエアコンを使いたいというご要望に応えたりもしてきましたから、消費電力に対してどのくらいのバッテリーが必要かも含めてノウハウは蓄積しています。今までに書き溜めた大学ノートが120冊ほどありますから。
もっと電気が必要になるかもしれない?
Kitagawa:それもあるかもしれませんが、たとえばバッテリーの搭載方法についてですね。重量バランスの関係でトレーラーの前方にバッテリーを積むことになっていますが、居住スペースを確保するために床下へ収めるアイディアも出てきています。それならリーフにもともとついている鉄製のバッテリーケースをそのまま使えそうなのです。そもそもこのケースは捨てるしかなかったものですから、それを活かせるのはいいことだと思ってます。あとは、搭載する場所が閉鎖空間ですから、結露に備えてBMS(バッテリーマネジメントシステム)などの防水性も確保しなくてはなりません。ほかにも、バッテリーを接続するプレートを銅板からニッケルクロームメッキのものにしたり、ボルト類も鉄からステンレスに変更してサビないよう対策するとか、メンテナンスに備えてバッテリーを運びやすいよう取っ手をつけるとか、そういう課題はいくつかあります。
Kitagawaさんがこれまでに手がけてきた蓄電システムと比べて、SUMIKA LABOのちがいはありますか?
Kitagawa:さっき話したロケバスのほかに、弊社でもマイクロバスをベースとして似たようなクルマを作ってます。でも淳さんほどいろいろな電気機器を動かしてはいませんし、さらに寒冷地での使用もあったりと、SUMIKA LABOのほうが使う条件は厳しいんです。その点ではうちにとって新たなデータを得られるというメリットもあります。
Kitagawaさんにとっても新たな挑戦だし、前例がないものをゼロから作り上げていく実験でもあるわけですね。
Kitagawa:僕はそこまでかまえた考え方はぜんぜんないんですけど、前例がないものというより、欲しかったものを誰も作ってくれないから自分たちで作ろう、という感じですね。ひょっとするとおおげさな言い方かもしれませんが、今の日本の産業構造に必要なスピリットではないかと思います。制約もなく自由な発想でモノを作れる。最終的にどんなものができあがるんだろうっていう楽しさがあります。
まだ見えていないけれど、大きな可能性を秘めているんですね。
Kitagawa:淳さんが言ってましたけど、電動ピックアップトラックでSUMIKA LABO牽引して、ソーラーパネルで発電した電気でトラックを充電して旅をするというの、僕もやりたいですよ。エネルギーの自給自足で永久機関みたいなことができたらすごく楽しいなって。こういうことを自動車メーカーのエンジニアが聞いたら「なんてバカなことを言ってるんだ」と言うでしょうけど、僕にはバカなこととは思えないんです。ソーラーパネルだってもっと出力の高いものが出てくるかもしれないし、バッテリーやチャージコントローラーが飛躍的に進化するかもしれません。たとえバカと言われてもビジョンを持っていないと、そういう時代が来たときに新しい技術情報も入ってこないし、そのときになってもビジョンを描けません。そういうときがいつか必ず来ると思うんです。そのときまで、淳さんと一緒にSUMIKA LABOを作っていきたいですね。